バスタブの夢


外からケーキのにおいがする
ケータイからの安っぽいBGM
女子のお風呂には
汗を流す以外にもいろんな意味があるものだ

25m泳げないあたしが
唯一水中が愛しいと思える瞬間
メイクも落とした
眼を開けて バスタブの深海へ

ぼやけてるけど
あたしの脚が見える
はがれかかったペディキュア
治る気配のない傷も
わたしがわたしである証拠
美人のあの子の脚にはできものひとつ許されない

髪伸ばしたいな
視界に黒い影
少し大人になったあたしを
心は批判的に見つめる
でもやっぱり人が恋しいです

息継ぎのあと
夕方の窓がもうすこし
夢を見ていてもいいよというので
ありがとう
もう一度潜水

眼が悪い人の視界ってこんなかんじかな
眼がよすぎてつまらない日もあった
世界ってこんなキレイなもんだったんだね
って気付いたみたい

いつか観た夢(これも夢かな)
あたしはどしゃ降りの駅で誰かを待っていた
凍えそうな冷たい雨の中
その誰かを待つ情熱が体を燃やしていて
むしろ汗をかいていた
鼓動がうるさくて
好きで好きで
たまらない人だったのを覚えている

誰?

ふと現実からトリップ
その瞬間

排水口は間違ってあたしを飲み込んだ
いつものバスタブは頭上高く
ビニールのアヒルも私を見送った

あたしはなんともないよ
でもいつか聴いた歌みたい
あたし思ってる
なんか違っててほしい
あたしがいないとダメなことがあってほしい
あたしがいないと
ダメな人がいてほしい
こう願うことも
あたしである証拠らしい
よかった
あたしはあたしだ
こんなやわらかい夢を見るのも
今はあたしだけみたいだ


汗以外の何かが溶け出たお湯を抜いて
夢心地のバスタブに
何か変わった私の体が残る
夢から覚めた私は
夢を夢と認識して
大人になるのを受け容れられるだろうか

脳内ミュージックビデオ
あたしはあの歌手みたいに思ってる
こんな風に現実を見たあと
そんなもんだ って
わりきれるものでもない
大人になったって
やっぱりどっかで夢見てる
いつもの風景に
あたしはロマンティックすぎるほど
夢を見てる